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治験翻訳A to Z
  キーワードで考える治験翻訳の世界
東京医科歯科大学非常勤講師
アルパ・リエゾン株式会社代表
有馬貫志
第3回   Clinical Study Report
 
  A written description of a study of any therapeutic, prophylactic, or diagnostic agent conducted in human subjects, in which the clinical and statistical description, presentations, and analyses are fully integrated into a single report.

*ICH HARMONISED TRIPARTITE GUIDELINE FOR GOOD CLINICAL PRACTICE E6
http://www.nihs.go.jp/dig/ich/efficacy/e6/e6step4.pdf
 
治験総括報告書   治療薬、予防薬又は診断薬の治験について記述した文書で、臨床的・統計学的な記述、説明及び解析を一つの報告書に網羅してまとめたもの。

**「医薬品の臨床試験の実施の基準の内容」厚生省中央薬事審議会答申第40号

治験翻訳A to Z、第3回目は実際に治験翻訳で扱うドキュメントを紹介しながら、治験の全体像を探ってみたいと思います。今回取り上げるドキュメントは治験総括報告書です。治験総括報告書は名前のとおり、治験の成果を最終的にまとめた報告書で、当局へ申請する書類の中核となるものです。治験総括報告書には治験の全体像が記録してあり、治験実施計画書と同様に治験の概要を知ることができる大切な教材でもあります。
 

治験総括報告書の構成

総括報告書の意義と構成については、ICH E3「治験の総括報告書の構成と内容に関するガイドラインについて」に詳しく書かれています。ガイドラインでは報告書に記述すべき内容を大きく16の項目に分け、さらにその詳細についてのアドバイスが示されています。百聞は一見に如かず、以下にその16の項目がどのようなものなのか、英語と日本語の対訳の形にしてみました。

1. Title Page 1.標題ページ
2. Synopsis 2.概要
3. Table of Contents for the Individual Clinical Study Report 3.目次
4. List of Abbreviations and Definition of Terms 4.略号及び用語の定義一覧
5. Ethics 5.倫理
6. Investigators and Study Administrative Structure 6.治験責任医師等及び治験管理組織
7. Introduction 7.緒言
8. Study Objectives 8.治験の目的
9. Investigational Plan 9.治験の計画
10. Study Patients 10. 治験対象患者
11. Efficacy Evaluation 11. 有効性の評価
12. Safety Evaluation 12. 安全性の評価
13. Discussion and Overall Conclusions 13. 考察と全般的結論
14. Tables, Figures and Graphs Referred to but Not Included in the Text 14. 本文中には含めないが、引用する表、図及びグラフ
15. Reference List 15. 引用文献の一覧表
16. Appendices 16. 付録

英文出典:http://www.nihs.go.jp/dig/ich/efficacy/e3/e3step4.pdf
和文出典:http://www.nihs.go.jp/dig/ich/efficacy/e3/e3_j.pdf

これらのうち、1から4までと14から16までを除く残りの部分、つまり5「倫理」から13「考察と全体的結論」までの部分が治験の流れを示していますから、もう少し細かく見ていきましょう。

倫理的大問題

第5章は、倫理について論じています。新しい薬物の実験対象に人間(治験では「ヒト」と書きます)を用いる、という風に考えると、すぐに浮かんでくる言葉があります。そうです。「人体実験」ですね。治験が開始される前には、基礎研究から始まって、生体細胞や動物を用いた試験が入念に行われるのですが、動物実験で安全が確認されたからといって、必ずしも人体での安全が100%保証されるとは限りません。従って、被験者を副作用などの有害な影響から守ることが大切です。いわば治験が人体実験ではないことを保証することが、倫理的問題の大きな目的となります。WMA世界医師会は、1964年の第18回総会でヘルシンキ宣言「ヒトを対象とする生物医学的研究に携わる医師に対する勧告」を採択しました。ヘルシンキ宣言の意義は、研究の際に被験者の利益と福祉を最優先すべきであることを確認し、その具体的な手続きを定めたことにあります。このような精神を受けて、第5章では実際の治験の実施の手続きを語る前に、まるまるこの倫理的問題を扱っているのです。

目的とデザイン

治験の目的が定まったら、比較試験にするのか盲検性はどうするのか、また被験者はどのように選択するかなどの、それに見合う試験デザインが検討されます。第8章から第10章までは治験を計画し準備する段階だと考えてもいいでしょう。ただし、これらの部分は実際には治験実施計画書の作成段階で十分な検討を経て用意されています。ここではまず治験の全体的なデザインが説明され、さらに細かく、被験者の選定と試験グループへの振り分け、治療方法の詳細、治療期間やその間隔、評価項目、データの品質保証、さらには統計手法に関する計画などが記述されています。

有効性と安全性の報告

第11章と第12章は、有効性と安全性についての報告です。治験の目的が、新しく開発中の薬がこれまでのものよりよく効いて、かつ安全であることを示すことであると考えれば、この部分の重要性がよく分かると思います。安全性では、治験に関連して認められた有害事象の報告が多くの部分を占めます。特に重大な有害事象については、別に「重篤な有害事象」として報告しなければならないなど、その記述方法について細かく定められています。また、得られたデータに意味付けをする統計解析については、別に統計解析報告書が添えられます。このように厳密なルールに則った詳細な報告を経て、第13章で結論の提示が行われるのです。 以上、治験総括報告書のガイドラインに沿って治験の流れを見てきました。倫理的大前提を確認し、治験デザインや被験者の選択といった準備をします。準備ができたらさまざまな検査をしてデータを取り、そのデータを解釈して有効性と安全性について確認します。治験ドキュメントの翻訳をする際にはこうした治験の流れをいつも考えながら訳してください。

『通訳翻訳ジャーナル』2006年8月号より転載