未知の分野で仕事をしなければならないときに、最低限見た目の不自然さをなくすというのは、極めて自然な考え方です。治験翻訳の世界では、見た目の自然さを損なうのは、治験のレギュレーションに関わる基本的な用語の使い方の間違いです。例えば治験総括報告書(CSR)の翻訳をしていると、その最初のページには、Title of Study、 Investigator、 Study Center、 Phase of Development、 Primary Objectiveなどといった決まった用語が必ず登場します。これはプロトコールや治験総括報告書の書き方に一定の決まりがあって、どの治験でもそのガイドラインに従って書かれているためです。
こうした決まった表現は、いわばゴルフや乗馬(あるいは渋谷センター街の「ギャル」や「ギャル男」でもいいのですが)にとってのファッションと同じ意味を持っています。つまり「仲間」と「それ以外」を区別する徴表としての機能を持っているわけです。例えばTitle of Studyの訳し方はいろいろ可能ですが、「治験の標題」と訳して始めてその世界の人間として認められるわけですね。あるコミュニティーの中だけで通用する言語体系をレジスターと呼びますが、治験の世界にも単語からフレーズ、日本語の言い回しなどに一定の慣習が存在しています。