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治験翻訳演習担当講師
東京医科歯科大学非常勤講師
アルパ・リエゾン株式会社代表
有馬貫志
《第26回》 翻訳者の社会的な位置について(2)
東京では4月にはいってからずいぶん寒い日が続いていますが、皆様お元気でしょうか?さて、今回は、前回に引き続き、翻訳者の社会的な位置について考えていきたいと思います。翻訳者への不当な評価が生まれてくる原因を探る、ということで、最初になぜ翻訳レートがもっと高くならないか、というところから考えてみます。今後シリーズでお話し申し上げることは、基本的に筆者の主観によるものですが、最初にデータを少しみてみましょう。データは、(社)日本翻訳連盟発行の日本翻訳ジャーナル222号から、平成17年度翻訳白書です。
http://www.jtf.jp/jp/journal/journal_top.html
この翻訳白書に掲載された翻訳業界アンケートによれば、翻訳業界全体の売上高は増加の傾向を示していますが、一方で、翻訳レートの下落の傾向には歯止めがかかっていません。著者の高崎氏はその原因として、価格競争、クライアントの値下げ要求、翻訳支援ソフトの使用という3点を指摘していらっしゃいます。ただし、価格の値下げは、同じ実務翻訳でも分野によってその程度はまちまちのようです。治験翻訳講座受講者の中にも、少しでもレート下落の影響の少ない分野として治験翻訳を選んでいらっしゃるケースがあります。こうした違いは我々が生きる時代の経済構造の変化に由来するものであるかもしれませんね。
治験翻訳者のソースクライアントである製薬業界は、現在最もグローバル化が進んでいる業界のひとつだと言われています。新薬の開発が数百億円、時には1千億円を超える予算を必要とする大きなプロジェクトであるため、外資系の巨大企業がそのシェアを独占しつつあるのが現状です。実はここに翻訳レートが高くなりにくい原因のひとつが隠れている気がするのです。翻訳のレートを決めている責任者は、その組織によってまちまちでしょうが、その責任者がインド・ヨーロッパ系言語の話者であったと仮定してみましょう。
たとえば英語を他のヨーロッパ系言語であるフランス語やドイツ語に翻訳する場合と、それらを日本語に翻訳する場合とでは、必要となる翻訳技術の差は、実は非常に大きいのですが、外国人の上司にはそれが分かってもらえない、ということが考えられます。シェークスピアの小説の一説にある人物を否定的に評価する場面があるのですが、そこでは「あの男は外国語ひとつ満足に話せない」といったことが言われています。ヨーロッパ人にとって、語学の習得というのは決して特別な技能ではなく、誰にでも簡単にできることなのです。言語学的には、日本語話者は外国語習得に関して世界で最も大きなハンディキャッ プを持っているのですが、それを日本人以外に理解してもらうのは、とても難しいことなのですね。さて、もう紙面が尽きてしまいました。次回も引き続き、翻訳レートがあがらない理由を考えていきます。
つーほんメール【第113号】2007年4月21日発行より転載
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