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  2006年7月秋学期の「治験翻訳講座」の授業レポート



興味深い講座開講の由来

「治験」という言葉、これまで聞いたことがなかったのだが、「治療」と「試験」がつながってできた言葉らしい。医学翻訳というと、医学論文や医学書の翻訳といったイメージが強いが、実際には製薬会社や関連企業から発注される治験ドキュメントの翻訳が、最も需要が高いそうだ。高齢化社会が進む現代、新薬の需要は高まるばかり。治験では平均的な翻訳ドキュメント1本のページ数は100ページ以上もの分量があるということで、需要が高いのもうなずける。しかし実際には治験翻訳者の数は圧倒的には不足しており、このままでは医薬品の承認審査にも影響を与えかねない状況だ。

  そうなれば、日本での医薬品の認可が遅れ、一刻も早い発売を待ち望んでいる患者さんにとっては大きなダメージにもなりかねない。そうした状況を打開し、業界全体の活性化までを考慮して生まれたのが治験翻訳講座である。講師は製薬会社から治験を受託する機関であるCROで自ら治験ドキュメントを書いている木村先生と、治験専門の翻訳レビュアーである有馬先生の二人。いわば治験翻訳の第一線で活躍されるお二人の共同作業から生まれたコースである。



治験の概要が膨大な情報量と共に提示される

 最初に木村先生の講義の様子からお伝えしよう。まず驚いたのは、配られる講義資料の量の多さである。スライド原稿だけでも300ページ以上。1日4時間の集中講義とは言え、ちょっと圧倒される量である。講義では治験がどのように行われるのか、その全体像を示しながら、翻訳者が目にするであろう多くドキュメントを、時系列ごとに紹介していく。「治験は厳格な規則にのっとって行われるレギュラトリーサイエンスです。必要なレギュレーションやガイドラインもきちんと把握しましょう。」と、木村先生。では実際、どこに行けばそうした知識が得られるのか。それはテキストの文献リストにすべて網羅されている。

  すでに治験関連企業で仕事をしているという受講生の一人は、「ここまで、ご自分の持ってらっしゃる知識や情報を開示してくださるなんて!」と、感謝に耐えない様子。木村先生の穏やかながらも真摯なお人柄ゆえか、受講生と講師との信頼関係がひしひしと伝わってくる授業であった。



基本を重視して受講生の自助能力を養成する

 次に有馬先生の翻訳演習「実践クラス」の様子を見学した。事前にテキストを見せていただくと、表紙に製薬会社からの使用許可が明示されている。治験で扱うドキュメントはどれも機密文書であり、普段、翻訳学習者が目にする機会はまれだろう。こうした「本物」のテキストを使えるのも本講座ならではの特徴ではないだろうか?「治験はレギュラトリーサンエンス」というメッセージはここでも共有されていて、有馬先生から受講生の訳語のひとつひとつに「その訳語を選んだ根拠は何ですか?」という質問が飛ぶ。どの辞書を調べたのか、グーグルの出典は何なのかが問われ、信頼に足る出典をきちんと把握することが、訳語選択の基本中の基本であることが徹底して教えられていく。

  授業の後、何人かの受講生に有馬先生のクラスの印象を聞いてみると、「個別の答えだけではなく、基本的な考え方を教えてくれるのがいい」という感想。個別の訳語を教えるのではなく、基本的な訳出の考え方を重視するのは、受講生に講座終了後に自力での問題解決能力を持たせるのが目的だという。このあたり、教師経験が長い有馬先生の「教える技術」が生かされているのだろう。需要の見込まれる分野だけに、将来この講座からどんな治験翻訳者が育ってゆくのか、今から楽しみである。